昨年12月のまとめということで、ここはサラッと読んだ順番に羅列してみる。
ミチル
スペース・コインランドリー図書室
12月号
< メイと双子 >
今回のシンクロ・ポイントは2つ。
そのどちらもが『パン屋再襲撃』(以下『パン再』)に関するもの。
- メイ
『パン再』に出てくる女の子の名前メイと『PINK』の主人公メイ。 - 双子
『パン再』に出てくる双子と『鎌倉うずまき案内所』に出てくる双子。
『パン屋再襲撃』 村上春樹
ワタナベノボルとその周辺の人々をゆるやかに廻る環のような物語群でありそうなのに、そこここにミッシング・リンクが散りばめられているような浮遊感がステキ。
『逆さメガネで覗いたニッポン』 養老孟司
都市化し硬直する社会や大人。
身体感覚を取り戻しアウトプットしてゆくことで変化が訪れる、かもしれない。
『PINK』 柴田よしき
「そろそろ時間切れです。心の準備をして下さい」。
差出人不明のメールが届いた日から、夫は別人のように変わってしまった。しかも夫はその後、殺人容疑で逮捕される。一見すると震災後の神戸を舞台にした再生の物語のようでいて、終盤のあまい展開に主人公がまた別の新たなスイッチに切り換わってしまったのでは...と思わず勘ぐってしまう。
『沈黙者』 折原一
埼玉県久喜市で起きた2家族6名の殺害事件。
池袋で起きた万引傷害事件で逮捕され頑なに身元を明かさぬ青年。複雑に絡み合う事件と容疑者。途中までは引き込まれたけれど、発端になった動機、弱くない?
『カカノムモノ』 浅葉なつ
人と魚のあわいを生きる美貌の青年の呪われた宿命は人の穢れを呑み続けること。
穢れを抱えた相棒、訳ありの幼馴染、妖しげな主治医など話が進むごとに登場人物が増えてゆく。今作で出揃った感があるので、
さあ続編へ。
『カカノムモノ2: 思い出を奪った男』 浅葉なつ
前作とは若干様子が違う。
桐島のために芥川の本を調達したという涼。もし芥川のあの話だとしたら...桐島の穢れの原因が薄っすらと浮かび上がるところで話が終わる第二幕。
( カカノムモノ3 :呪いを欲しがった者たち (新潮文庫nex) )
『グレート生活アドベンチャー』 前田司郎
「ぐうたらニート(30歳・男性)のしょーもなく見える日々の話」と「この世からゆっくり消えようと崖から身投げしたOL(30歳)の海面に激突するまでのモノローグ」の2話収録。
2つの話のギャップがすごく、読み終えてなぜか数学の問題集が解きたくなる。
『鎌倉うずまき案内所』 青山美智子
迷い人の前に現れる鎌倉うずまき案内所。
そこに導かれた6人の悩める人びと。ぐるぐるまわるうずまき、どんどん遡る時間。つむじの巻、花丸の巻、ソフトクリームの巻がとくにグッとくる。ああ、そうだったのか、黒祖ロイドと珊瑚と人魚。楽しい読書だった。
『生命式』 村田沙耶香
発表年も媒体も様々な12篇。
なのにどれも、ゆっくり、ゆっくり、引き込まれ、あらゆる境界が揺らぎそうになる危うい物語。「夏の夜の口付け」「二人家族」、菊枝と芳子の話がよい。
『運転者』 喜多川泰
運を転ずる者が教えてくれる、運がいい・悪いなどなく、ポイントのようなものという解釈。
わかりやすい。このタイミングで読めてよかったかも。
『死の海』 後藤宏行
本書の中で著者も言っている「読んでくれた人が私と同じようにモヤモヤした読後感を得て、モヤモヤした気持ちになってくれて、そういう事故があった、そのことをぼんやりとでも記憶していただければ」と。
まさにそんな読後感。
2020年が始まった。
今年はどんな本に出合えるだろう。
ワクワク感しかない!
2019年12月号の図書
a writer:ミチル
属性:Sexually fluid
ペット:白玉という名の猫を妄想で飼っている
▼ Written by MICHIRU▼
Written by ISAMU <パラサイト・コインパーキング編集部>
他の村上春樹小説『ねじまき鳥クロニクル』にもメイはいう女性は出てきます。
「笠原メイ」
交通事故を理由に仮病を使って高校を不登校中に主人公の「僕」と出会います。
自宅の庭でサングラスとビキニ姿で体を焼いたり、カツラメーカーでアルバイトをしたり、もちろん(?)未成年でありながら喫煙・飲酒をしている自由奔放な女の子です。
(あと『ダンス・ダンス・ダンス』にもコールガールのメイがいます)
僕の偏見ですがメイという名の女の子「メイちゃん」は絶対可愛い。笑
そして双子といえば『1973年のピンボール』の双子。
「僕」の自宅に突然現れ、そのまま住み着きます。ベッドでイチャついたり、ゴルフ場に不法侵入して散歩をします。
どんなに時間を過ごしても「僕」は、その双子をそれぞれのトレーナーの胸の部分にプリントしてある数字「208・209」でしか見分けることができません。
(「メイ(笠原メイ)」と「双子」が繋がるの『パン屋再襲撃』に納められている『双子と沈んだ大陸』)
僕にとっての最近の「双子」はスティーヴン・キング『シャイニング』『ドクター・スリープ』オーバールック・ホテルに出てくる手を繋いでる双子の幽霊です。
*
今回のスペース・コインランドリー図書室 で僕が読んだことがあるのは『パン屋再襲撃』のみです。
- 『PINK』 柴田よしき
「震災後」「新興宗教」「ミステリー」は良い組み合わせですね。 - 『沈黙者』 折原一
表紙がスティーヴン・キングっぽい。 - 『死の海』 後藤宏行
幽霊怪事件は大好物です。
気になります。
天貫勇