ねっとりとネット

ねっとりとこびりついた「ねっとり」をねっとりと、ネットへくっつけるネット。

Written by MICHIRU〜2020年5月号【< 女王様、百合的恋愛・性愛、名前のシンクロ >スペース・コインランドリー図書室】

 


2020年5月14日、 39県における緊急事態宣言の解除を政府が発表。

残る8都道府県(北海道、東京、神奈川、埼玉、千葉、大阪、 兵庫、京都)は引き続き緊急事態宣言対象地域として外出の自粛が 要請される。

 

これはこれで楽しいし、 なんなら自粛生活のペースが心地よく感じつつある、 そんな5月の読書感想。図書館がしばらくは休館しているので、 積読本と化していた手持ちの文庫をひたすら読んでみる。

そんな中にもシンクロナイズドリーディング・ ポイントは発見できるのか?

 

▼「シンクロナイズドリーディング・ ポイント」についてはこちら▼

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< 女王様、百合的恋愛・性愛、名前のシンクロ >

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シンクロポイント No.1 「職業としての女王様」


登場人物たちの職業として描かれる女王様、『女王様ゲーム』 越後屋(悦の森文庫)

ある日突然、自分の意志とは無関係に集められた7人の女王様。 そこで宣言されたのは、お互いを調教し、Mの誓いを立てさせるルール無用のデス・マッチ。勝者には巨万の富、敗者には屈辱的な仕打ち。

思いの外読み応えのある、ビアン的SM小説。

 

作者がSMクラブの女王様経験者、『崖っぷちの鞠子』 坂井希久子(光文社文庫)

官能恋愛短編集。連作の「アップルロールの彼方へ」「クロエ・ クロニクル」が良い。
あとは、「肌恋い」が残る。

 

 

シンクロポイント No.2 「百合的な恋愛や性愛」


『女王様ゲーム』は全編にビアン的絡みが、『崖っぷちの鞠子』 収録の「肌恋い」も女性同士の恋愛よりも性愛に重きを置いたよう な関係が描かれている。


前者よりも危うく脆く切実で切羽詰まっている、『雨の塔』 宮木あや子(集英社文庫

あらゆる意味で世間から隔絶された全寮制の女子大、そんな陸の孤島で暮らす4人の少女。外出自粛を求められている今 、優雅に隔離された彼女たちの日常が逆に贅沢にさえ思えてくる。 この時期に読んでよかった。『太陽の庭』とリンクしている。

 

 

シンクロポイント No.3 「名前のシンクロ」


まりこ(鞠子・マリコ)

『崖っぷちの鞠子』と『神様、マリコをなんとかしてください。 完全版』 杉浦真夕(リンダブックス)

仕事に生きる36歳の主人公の前に、捨て去った過去であるはずの13歳の自分が現れる。

果たして2人 は元の生活に戻れるのか?「バック・トゥ・ザ・フューチャー」 的な展開に分かっていてもつい引き込まれる。 

バック・トゥ・ザ・フューチャー (字幕版)

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  • 発売日: 2013/11/26
  • メディア: Prime Video
 

 


月夜と夜月

主人公の名前が月夜の、『無花果とムーン』 桜庭一樹(角川文庫)

物語自体よりもあとがきに気を惹かれた。けれど後々、 物語の断片をキラキラした思春期のカケラみたいに思い出すんだろ うなあ、きっと。


主人公の知人として月夜という人物がでてくる、『 きのうの神さま』 西川美和(ポプラ文庫)

僻地に住む人々や、僻地医療に絡む短編集。 環境や状況によって人が望むことは違ってくる。正しさは万能では ない。映画『ディア・ドクター』のアナザー・ストーリーらしい。 映画も観てみたい。 

 


強いて言うと姉妹の長女が夜月という名前の、『三人屋』 原田ひ香(実業之日本社文庫)

朝・昼・晩で業態がガラリと変わる「三人屋」を営む三姉妹。 親の残した店を継ぎ周囲との密な関係を引きずる、 そんな生活は煩わしくもあり温かくもある。原田ひ香版『 男はつらいよ』に思える。

男はつらいよ HDリマスター版(第1作)

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  • 発売日: 2014/12/17
  • メディア: Prime Video
 

 

 


その他


『太陽の庭』 宮木あや子(集英社文庫)

好奇心は猫をも殺す。この場合、 身を滅ぼされたのは一体誰だったのか。なぜかもののけ姫のシシ神 を思い出す。

『雨の塔』とリンク。

 


『押入れのちよ』 荻原浩(新潮文庫)

どこか物悲しい幽霊たちとどこか歪な人間たちの短編集。表題作が断トツによい。

「予期せぬ訪問者」は映像化したら面白そ う。

 


『箱庭図書館』 乙一(集英社文庫)

たとえば乙一氏が果汁だとするならば、本書は乙一果汁30% くらいの果汁入り飲料で、飲めばそれなりにおいしいけれど、やっぱり乙一果汁100% ジュースのほうが好きだなと改めておもう。

箱庭図書館 (集英社文庫)

箱庭図書館 (集英社文庫)

  • 作者:乙一
  • 発売日: 2013/11/20
  • メディア: 文庫
 

 


『誰もいない夜に咲く』 桜木紫乃(角川文庫)

物語の女性たちはどんな境遇にあっても自分の足で立っている。桜木紫乃の描く女性たちには湿度がないといつも感じていたけれど 、どうやらそれは常に風が吹いているかららしい。

最終話の「 根無草」のラスト数行辺りから渡辺真知子の『かもめが翔んだ日』 が脳内で流れ出す。


【カラオケ】かもめが翔んだ日/渡辺真知子

 

 

『それを愛とまちがえるから』 井上荒野(中公文庫)

え、これってコメディなの?とまず思う。セックスレスの夫婦と、それぞれの恋人たち? 不倫相手たち?( 同じようなものなのに恋人と不倫相手って随分響きが違う) が4人で集うバカンスの1夜とその前後。

フランス映画にありそうな設定。

 


『善知鳥』 山本昌代(河出文庫)
ひがな一日、寝そべって読み耽る。山本昌代を知ったのは『江戸役者異聞』、その後も好きでいろいろと読む。とくに『 善知鳥』 は以前どこかで人体をどうこうするというようなのを見かけて以来 ずっと探していた。

表題作のみ現代の話で、ほかは全て時代もの。 ああ、満足。

 


『僕は君を殺せない』 長谷川夕(オレンジ文庫)

廃遊園地、身代わりミステリーツアー、繰り広げられる殺戮。

謎の多い表題作よりも、「Aさん」と「春の遺書」が印象に残る。 特に「Aさん」の不穏さが忘れがたい。

 

 

finish

 

▼筆者紹介▼

  • a writer:ミチル

  • 属性:Sexually fluid

  • ペット:白玉という名の猫を妄想で飼っている

 

 

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Written by ISAMU <パラサイト・コインパーキング編集部>

 今月も記事の執筆ありがとうございました。

「シンクロナイズドリーディング・ ポイント」がなんとも重層的に絡み合っていて豊作の月だったのではないでしょうか?

ゾーンに入っているような、フロー状態のような、サイア人のような読書無双の日々を過ごせたようでよかったです。笑

これも外出自粛期間に感謝ですね(?)。

 

僕は積読本ではなく既読本を読み返しています。内容が既に僕の脳内にインプットされている本とはお別れしています。

 

 

天貫勇