先日フライパンを新調した。そして思った。 フライパンと人間を取り巻く環境は似てるかも、と。
何事もスムーズに運ぶフライパンと何をどうやっても必ず焦げつくフライパン、そのストレスは雲泥の差。 料理の出来不出来への影響はもちろん、 それを人間の成長に置き換えて想像すると怖くなる。
そんな2020年10月の読書感想。今回のシンクロ・ ポイントは4つ。
ミチル
▼「シンクロ・ポイント」についてはこちら▼
スペース・コインランドリー図書室
< 建築物への偏愛、佐伯という苗字、毒親、ピンクづくし >
① 「建築物への偏愛」
ある特定の建物に魅入られる女性の話と、一級建築士による海外のホテルに関するフォトエッセイ。
特定の施設や建物に魅入られる気持ち、わかる。 個人的には日本郵船・氷川丸の船内のアールデコ装飾を心ゆくまで 堪能してみたい。
いつも視界に入る場所に建っている、水色の家。明るい水色に塗られた壁板に赤茶色の瓦屋根の洋館ふうの建物で、その家の内部や庭も映した写真集「春の庭」を日々眺めながら、どうにかその家の中へ入ろうとする女。ゆるゆると進む日常やご近所づきあいの様子よりも、 水色の家に執心する人たちの気持ちに興味を惹かれる。
汲めども尽きぬ富があり気分のままに生きられるとしたら、終生のホテル暮らしもわるくないなあと、非日常的な空間での日常生活に思いを馳せてみる。
② 「佐伯という苗字」
2つの話に共通して出て来た佐伯という苗字。(以下、 各本文より抜粋)
「おれは、佐伯ナオ。生まれた時から夜逃げするまで、 佐伯ナオだった。その前の名前は、ない。」(某/川上弘美)
「大家の家に佐伯さんの長男が戻ってきた。 差し出された名刺には、「佐伯寅彦」と書いてあった。」( 春の庭/柴崎友香)
突如発現し、さまよったり交わったり集ったりしながら変化を続ける人間そっくりな〈誰でもない者〉たち。その活動を追いながら、なぜか次第に細胞の観察をしているような気分になってくる。もし 彼等が集合体になったら何を形作るのだろうか。
③ 「毒親」
搾取、翻弄、過干渉、暴力、性的虐待、様々なロクでもない大人(親)たち。
搾取、翻弄、過干渉。いくら愛されても、いくら謝られても、 許せないことがある。何を許し何を選ぶかを決める権利は各自その 人にある。だけれど情に流されてしまう現実もある。宮田と江永の交流と身の振り方は素晴らしいと思う。
家族に暴力を振るう夫を殺害し15年後に必ず戻ると約束して自首したタクシー運転手の母が、時を経て帰ってきた―。映画化もされているけれど、もともとは劇団の舞台を小説化したもの。これは小説よりも、 臨場感のある舞台で見てみたい。
「なんとかしなければ。このままでは息子とセックスしてしまう」というなんとも掴みはバッチリな一文から始まる。読みながら絶えず主人公に対する感情が揺れ動く。ロクでもない胡乱な感じかと思えば、言うことは言うしそもれ全うだったりして。何を乗り越えてもこの人はゆくゆく息子とセックスするんだろうなと思わせるし、近親相姦的自家中毒のなかで一生を終えるのも本人がよきゃいいんじゃないの、とも思うけれど、ある1つの行為でやっぱりロクでもないに大きく傾く。それは、ある人から託された手紙の処遇。 こういうのちゃんとしない人って信用できない。
④ 「ピンクづくし」
とにかく、ピンク。ピンク、ピンク、ピンクづくし。(以下、 各本文より抜粋)
「後部車両からピンク色の塊がやって来る。あれは、夢の少女か。 レースだらけのワンピース。レースソックスにエナメル靴。 すべてピンク。」(ポップス大作戦/武田花)
「ピンク、ピンク、ピンク。目に映る家具のほとんどが、 明度の違うピンク色で統一されている。」(愛されなくても別に/ 武田綾乃)
懐かしいような新しいような、レトロモダンな原色の洪水に目を奪われて楽しい気分になるフォト エッセイ集。思わずフルピンクコーデで出かけてみたくなる。表紙と見返し&裏表紙と見返しが、それぞれ赤と緑の組み合わせに なっている凝った装幀もツボ。
その他、読んだもの
いちばんページ数が割かれていたハダカデバネズミ。その寿命はなんと最長30年!そしてハダカデバネズミの未分化のiPS細胞は移植してもガン化することがないそうだ。人間の勝手で悪いけれど、その研究もっと進んでほしい。それから、ATCV- 1という人間も感染する頭の働きを悪くするウイルス。このウイルスの検査どこかでしてもらえないのかな?とはいえ、感染の有無が分かったところで今のところ治療法はないみたいだけ ども。
猫とにしんとジム・モリソン。氏が翻訳したレイモンド・カーヴァー、読み直してみようかな。
著者のエキゾチックな名前からマッジクリアリズムの使い手なのかしらと。そんなテイストもありつつも、読み終えたころには世界が変容している「リスト」、女性たちが謎の変容を続ける「本物の女には体がある」が印象深い。異性愛も同性愛も当たり前に語られるこういう小説がどんどん増えるといい。鮮やかなピンクが印象的な装幀とその発色もステキ。
「 南米産の、モコモコと長い毛がたくさん生えた、ラクダ似の動物の、大きいほうがラマ、小さいほうがアルパカです 。」なるほど。やっぱりこの人の描く動物が好み。
楽しい読み物というより、ほんとに事典。 人によってはネタの宝庫かも(「はじめに」に「創作に利用しても 、構いません。」とある)。個人的に気になった怪異はどれもドイツのものだった。行ってみた い、ドイツ。あと、ネッシーのことは信じていたい。
だけれど、その気になりさえすれば、フライパンも環境も、いつでも変えられる。
finish
▼筆者紹介▼
- a writer:ミチル
- 属性:Sexually fluid
- ペット:白玉という名の猫を妄想で飼っている
▼ Written by MICHIRU:過去記事▼
www.netritonet.com
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Written by NUKKI <パラサイト・コインパーキング編集部>
記事の掲載ありがとうございました。
うっかりしてましたが先月10月にはミチルさんの記事が掲載されるようになって1年経っていました。友人の記事をブログの形に編集する行為が僕としても1年経った訳です。この希有な行為を通して、人生の航海を一緒に進めているような気さえします。笑
そうなると「ねっとりとネット」は船です。笑 これからもよろしくお願いします。
先月は「枕を変えて、青魚をもっと食べようと思った」と変化があり、今月は「フライパン」。小さな変化の連鎖起こっています。
僕も小さな不快さを生活から取り除くこと、そして日々小さな実験を繰り返すことは重要なことであると思っています。それが後に大きな変化に繋がると信じています。塵も積もれば山となる、山は結局は塵、バタフライエフェクト。
2020年10月には鼻の工事という大きな変化を起こしましたけれど。笑
p.s...
最近ではちょっとした思いつきをiPhoneにメモで残すようにしています。
ぬっきー
大人の嗜みの話etc...パイプパークの「アラサー独身男子の思春期こじらせラジオ」No.11『好きなAV女優 ベスト3』について